乳房杉

島根半島の沖合50kmにある隠岐の島、その島の最高峰(608m)である大満寺山の山頂近くに乳房杉(ちちすぎ)と呼ばれその名の由来である多数の乳根を垂らした、驚くほどに珍しい樹容をしたスギが現存している。布施地区から南谷林道を上って到着した時にまずは鳥居の下から見上げることになるが、夏の早朝に見る朝霧に包まれた威容は息をのむほどに神々しいといわれている。今朝はあいにく霧は無かったが、霧が無くともこの場の雰囲気は実に素晴らしい。乳房杉の周辺は大満寺山から崩れ落ちた玄武岩の転石が不規則に積み重なった地層になっているので内部は隙間が多く空気の流れがあるので岩倉風穴と呼ばれている。そして、朝には冷たい風が吹き出すために霧が発生するという。この環境で生き抜くためにこのスギは、気根を生み出したのであろう。大満寺山の山頂から北東に広がる斜面から中腹にかけての一帯は「岩倉」という地名になっているが、その名の発祥は「磐座(いわくら)」で、遠い昔は山そのものを御神体として祀られていたのであろう。それが明治以降の近年には、この乳房杉とその後方の大満寺山を「岩倉さん」と呼んで毎年４月２３日に春の山開きという祭りをとり行っているそうだ。

岩倉の乳房杉