我流つれづれ草２４１段

我流つれづれ草

2009/08/28

我流つれづれ草・・・満月の円かなる事は

満月の真丸い状態は一刻たりとも留まることはなく、時間と共に刻々と欠けて変化していくのである。月影に無常を想いながら、月を仰ぎ見たことのない人には、一夜のうちに、月がこれほどまでに変化するとは思わないであろう。
　病気についても同じことで、病状は刻々と変化して、死期はどんどん近づいてくる。だが、病気はまだ軽いものだと思っているので、まだ死を意識するようなことはない。　多くの人は、まだまだ長生きできる筈だという思いが染みついているから、元気なうちは、もっとやりたい事をやり、暇ができたら仏道修行でもしてみようと思っている。ところが、やりたかった事も、まだ何一つできていないのに、病気がぶり返して重病になり、死がまた一歩近づいてくるのである。

塩原八幡宮の逆杉

そこで過去の怠慢や不養生を悔い、反省こそはするものの、この病気が治ったら、今度こそは昼夜を惜しまず、あの事この事、やり残した事を怠りなく、実行するのだという願望まで持ってしまうのである。ところが残念にも、病気は治らず、危篤になり、心の準備も無いままに事切れて、逝ってしまう。多くの人は、こんなふうに死んでいくのである。
　我々はこの死という一大事を、このように済ましてはならないと、深く肝に銘じておくべきである。やりたい事を成して暇ができたら、自分の人生を見つめ直してみようと思っていても、やりたい事は次々と尽きることなく出てくるから、いつまで経っても自分と向き合う時間などできないものだ。
　夢・幻のように侘しい人生で何を望み何を成そうとしているのだ。この期に及んで出てくる欲望など、そんなもの妄想にすぎないのだ。
　それでもまだ色んな欲望が頭をもたげるのなら、それは心の惑いであるから動くべからず。すぐにでも仏道の修行に入るか、俗世から抜け出て、己の人生を見つめ直す事だ。そうすれば、世間の煩わしさや未練も失せ、穏やかな「心身」を得ることができるであろう。

徒然草　原文　第241段

望月の円かなる事は、暫くも住せず、やがて欠けぬ。心止めぬ人は、一夜の中にさまで変る様の見えぬにやあらん。病の重るも、住する隙なくして、死期既に近し。されども、未だ病急ならず、死に赴かざる程は、常住平生の念に習ひて、生の中に多くの事を成じて後、閑かに道を修せんと思ふ程に、病を受けて死門に臨む時、所願一事も成せず。言ふかひなくて、年月の懈怠を悔いて、この度、若し立ち直りて命を全くせば、夜を日に継ぎて、この事、かの事、怠らず成じてんと願ひを起すらめど、やがて重りぬれば、我にもあらず取り乱して果てぬ。この類のみこそあらめ。この事、先づ、人々、急ぎ心に置くべし。　所願を成じて後、暇ありて道に向はんとせば、所願尽くべからず。如幻の生の中に、何事をかなさん。すべて、所願皆妄想なり。所願心に来たらば、妄信迷乱すと知りて、一事をもなすべからず。直に万事を放下して道に向ふ時、障りなく、所作なくて、心身永く閑かなり。

遥か八方尾根を望む

この段によせて

２２００年前の昔、徐福は、秦の始皇帝が求める不老不死の霊薬が、遥か東方海上の三神山にあるので、霊薬採取に出かけたいと具申、始皇帝から膨大な予算を獲得して、３０００人もの若い男女、技術者を連れて旅立ち、日本に流れ着いたという。そんな「徐福伝説」なるものが、紀州、熊野をはじめ日本各地に存在しているのである。　人間はこのように古来より洋の東西を問わず、不老長寿の願望を持ちつづけてきたのであるが・・・はたして人間は、どのくらいの長寿を達成出来ているのであろうか。
　現在、判明している世界一の長寿記録者はフランス人の女性で、１２２歳だといわれている。そして、平均寿命の最長国が日本の８２．６歳、最短国がシエラレオネ共和国の３７歳だという。人間の寿命とは、戦争、経済、医療等々の生活環境によって随分と差が生じ、そして、不確かなるものだということがわかる。

　世界一の長寿国を誇る日本は、２００８年時点での６５歳以上の人口が占める高齢化率は２２％といわれて、これも世界一の栄誉 ? を得ている。
　そんな現在の日本は、どこに行っても老人ばかりが溢れる社会で、既に、年金、医療、介護等々の問題が山積しているのである。だが、これが、２０５５年になると、この高齢化率はなんと４０％以上になり、少子化で人口は３０％ほども減少するといわれている。

満つれば欠ける月

これほどまでに若者が減り、生産性の無い老人ばかりになり、そして、医療・医薬品産業ばかりを栄えさせても、そんな国家が、経済的に成り立つとはとても信じられないのである。だが、国は平気でこんな白書を国民に見せたままにして、どう対策をするのか知らないが、借金だけは８００兆円までどんどん積み上げてしまっているのである。もう吾輩には見届けることの出来ない未来社会だが、本当にどんな手を打つつもりなのだろう ?
　仮に、人間が願望する長寿なるものが、人間にとって幸せなことであるのなら、それを達成している日本人は、世界一幸せな国民だといえるのである。それならば、その頂点にいる、寝たきりになって延命治療を受けて、死にたくても死ねない人達や、病院、老人介護施設で長生きをしている人達は、楽園生活者ということになるのであろうか ? ・・やっぱり、今の世は何かを間違えてここまで来てしまったように思える。
　今や、満ち足りた経済大国に成り上がった日本ではあるが「満つれば欠ける月」の如く、無常にも移り変わり始めているのである。

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