我流つれづれ草

2006/12/11

神宮の松

心惑わすこと　さもあらんかし

我流つれづれ草・・・久米の仙人

人の心を惑わすに、色欲に勝るものはない。
人の心とはたわいのないものである。
実体のない匂いが、本人の匂いでもなく、 香水の匂いだと分かっていても、いい匂いのする女に出会ったりすると、男は必ず心に隙を見せたりするのである。
　空を飛ぶほどに修行した「久米の仙人」でも川で洗濯する女の白いふくらはぎを見て神通力を失い、墜落したという昔話があるが、 実際にそういうことが起こるのである。
　なぜなら、女の素肌の艶やかさと、脂づいてふっくらとした姿は、 男の色欲を掻き立てるように創られているからである。

徒然草　原文　第8段

世の人の心惑はす事、色欲には如かず。人の心は愚かなるものかな。匂ひなどは仮のものなるに、しばらく衣裳に薫物すと知りながら、 えならぬ匂ひには、必ず心ときめきするものなり。九米の仙人の、物洗ふ女の脛の白きを見て、通を失ひけんは、まことに、手足・ はだへなどのきよらに、肥え、あぶらづきたらんは、外の色ならねば、さもあらんかし。

[この段によせて]

兼好さんが女性を語る段は他にもあるが、色欲についてつべこべ述べず、久米の仙人を持ち出して、叱責するでもなく「さもあらんかし」 と同調しておられるのが好感できて面白い。 　仏門に入って、本人が最も悩んだ問題だったのかも知れない。
　「久米の仙人」とは、今昔物語に出てくる伝説の仙人で、俗世を離れて山に入り、厳しい修行のすえ、空を飛べるほどの術をものに した人である。そんな偉い仙人でも、白い足を出して川で洗濯する女のチラリズムに心惑わされて、神通力を失って空から墜落した。
　そしてその女を妻にして俗世に戻り、仙人生活から足を洗って幸せに暮らしましましたとさ・・・という話である。
　この話を聞けば、男の理性では女に打ち勝てないというのがよく分かる。
　ならば、どうするのか？　兼好さんは「さもあらんかし」で片づけているのだから、 指南できる人はいないということのようだ。

かずら橋

西祖谷山村に架かるかずら橋